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(注1)電子書籍の注釈は読みやすかったりする

2014年に電子書籍専用端末のKindle Paperwhite(PW)を購入して以来どっぷりAmazonに浸かっている。漫画とか雑誌などの固定レイアウトの書籍を読むのは画面が小さくてつらいが(そっちはセール時に5000円くらいで購入したFireタブレットを使用)、小説を読むのにはPWが圧倒的に楽だ。

前回の記事『騎士団長殺し』が電子書籍で出ない件について - hspqgy5’s diaryでつらつらと電子書籍の利点について述べた。その中でも特に伝えたいのが、註釈が読みやすいということ。

PWに限るけど、これには本当に感動した。

人文書はもちろん、小説でも海外古典作品とか読んでると、語句や文に対する当時の時代背景とか頻繁に注釈がついてる。

その場合、紙の本だと各章か本の末尾に注釈がまとめてあるので、注釈があればいちいちページをめくって、注釈の番号探して読んで、また本文に戻って、また注釈があったら……という感じになる。

これだと注釈読んでたらストーリーに全然集中できない。そのため、自分は注釈を読まない場合がほとんど。

でも、このバーナード・ショーピグマリオン』(光文社古典新訳文庫)ピグマリオン (光文社古典新訳文庫)の場合、

 f:id:hspqgy5:20170309205047p:image

最初から注釈かよ!

いきなり読む気が削がれるわ。でも、これはなんか気になるな……

そんな時にPWだと注釈番号をタップするだけで、

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この通り、画面下に注釈が出てくる(本文の下の方に付ける注釈を脚注というらしい)。これだとワンタップで注釈を参照できるし、本文と同じページで読めるから、ストーリーを追うのを邪魔しない。しかもこの『ピグマリオン』は注釈にタイトルの意味が書いてあってかなり重要だったりする。

ただ、同じ本でもFireタブレットだと脚注が出ずに、後注にジャンプするだけなのが残念。そもそも、たまに注釈へのリンクさえ貼ってない本もあるし。

まあ、電子書籍にはこんな便利な機能もありますよと言いたかったのです。

最後に、ナボコフ『青白い炎』の電子書籍版が出たら、この機能がどうなるか非常に気になるので出してください。

青白い炎 (岩波文庫)

 

『騎士団長殺し』が電子書籍で出ない件について

新潮社さま

いつも貴社の作品を楽しみにしております。

先日、貴社より村上春樹著『騎士団長殺し』が刊行されました。

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

同書は村上氏による久しぶりの長編小説ということで、都市部の書店では発売日0時丁度に発売を行い、多くの人が購入に訪れました。全国ニュースでもその様子を生中継するなど、出版業界では珍しく社会的な関心が非常に高かった事象と言えます。

その一方、北海道では列車の脱線事故により、発売日までに書店に同書が届かず、発売が延期されるという事態が発生しました。Twitter上では、発売を楽しみにしていた人が買えなかったり、わざわざ発売日に有給を取って同書を読もうとしていたのに、それが叶わなかったという声までありました。

新潮社さま、なぜ同書を紙の本と電子書籍を同時発売しなかったのでしょうか?村上氏の新刊となれば、全国的に非常に関心があることは容易に予見できます。加えて、貴社自身が事前に内容を一切明らかにしないというプロモーション活動を行い、読者の興味関心を不必要に駆り立てていました(これに関しては村上氏の要望と聞きましたが、それを受け入れたのは貴社です)。それならば、発売日に全国に本を届けるというのが筋だと思います。今回は列車の脱線事故という特殊な原因があり、貴社の責任とは言えないかもしれません。しかし、もし『騎士団長殺し』が紙の本と同時に電子書籍でも刊行されていれば、たとえ紙の本が届かなくても、熱心なファンならば電子書籍をダウンロードして発売初日に読めたのではないでしょうか。今回は特殊な事情でしたが、現在、少子化や過疎化により、地方では書店の数が減少しております。このままでは流通効率などの経済性から、地方は切り捨てられ、発売日に本を手に取ることができるのは都市部住民の特権となるのではないかと、今回の事故を受けて危惧しております。

また、貴社は「新潮社 電子書籍 基本宣言」と称した宣言を掲げています。新潮社 電子書籍 基本宣言|Shincho LIVE!(新潮ライブ!)|新潮社のデジタルコンテンツライブラリー

同宣言では、電子書籍と書店との共存共栄や、紙の書籍との調和を謳っており、ネット習熟度の差異や機器の差異が知的生活への貢献を妨げてはいけないとも述べています。この宣言に関してはもちろんその通りですが、書店がすぐ近くにない地域が日本にはあります。そもそも、地方の書店や図書館では、陳列、蔵書されている本の種類が非常に限られ、読みたい本がすぐに手に入らない状況になっており、Amazon楽天等のネット書店の力を頼らなければならない状況になっています。

居住地域の差異が知的生活への貢献を妨げています。

その点、電子書籍はネット環境さえあれば、読みたい時にすぐどこでも購入及び読書ができ、基本的に品切れもありません。電子書籍には、このようにして都市部と地方の格差を埋めることができる可能性があると思いますが、いかがでしょうか。

加えて、貴社から出版されている村上氏の作品に関して、エッセイは電子書籍版が出ているのにも関わらず、『1Q84』等の小説に関しては電子書籍版が出ていないのはなぜでしょうか。

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

村上氏は、自身が電子書籍利用者だと述べていることから、著作の電子書籍化自体に反対とは考えられず、事実、講談社文藝春秋社から出版している小説(中短編が中心ですが)に関しては電子書籍版を出しております。

風の歌を聴け (講談社文庫)

パン屋再襲撃 (文春文庫)

昨今、『電子書籍は売上に貢献しない』などという言説が出版業界から発信されており、電子書籍版の売上は微々たるものと言われていますが、村上氏ほどのビッグネームならば電子書籍版が出れば買う人はたくさんおり、売上は微々たるものとは言えないでしょう。それなのに、なぜ貴社が村上氏の小説に関して、電子書籍版を出さないのか非常に不思議に思います。

出版不況と言われていますが、電子書籍の市場は確実に増えています。私は貴社が「電子書籍」という分野に対して後ろ向きで、出版不況という外部要因に甘んじているとしか思えません。

なぜ、私がここまで電子書籍版を希望しているのか。それは、電子書籍には上記の他にも様々なメリットがあるからです。

  1. 自由に文字サイズを変えることができる。老眼が進んだ人や、弱視の人にも優しいです。
  2. 電気を点けずに読書ができる。端末にバックライトが付いていれば、隣で眠る家族を起こさずに自分の読書に集中できます。
  3. どんなに厚い本でも、片手で本が読める。通勤電車で立って本を読むのに適しているし、片手が不自由な人にも優しい作りと言えます。旅先に何冊も本を持っていけます。『騎士団長殺し』は非常に厚く、私はあの厚さの本を持ち歩きたいとは思いません。特に、第1部をもう少しで読み終わりそうな時、第2部を一緒に持って歩くのは苦痛でしょう……。
  4. 物理的に本を置く場所が必要なくなる。本を物理的に眺めるのも好きですが、本に家のスペースを取られている読書家には嬉しいことです。
  5. 本文検索できる。「あのフレーズどこにあったっけ?」という悩みを解決します。
  6. その他、註釈にリンクが付いているものは、クリックすれば同一画面に註釈が出てきて非常に便利ですし、本に自分でタグ付けできて整理できるのも電子書籍のメリットでしょう。

電子書籍には少なくともこれだけのメリットがあります。もちろん、私は紙の本を否定する気は全くなく、紙の本にも良さは沢山あります。

  1. 紙独自の風合い。紙の手触りや香り、そして装幀は決して電子書籍には真似できません。
  2. 流し読みに便利。ぱらぱらっとめくって自分の感覚で読む部分を決めたり、目に付いた所を読むには紙の方が便利。
  3. 読み比べ、書き込みに適している。複数ページや複数の書籍を読み比べたり、ページへ書き込んだり、マーカーや付箋を加える。これは電子書籍にもできますが、紙の本の方が圧倒的に便利です。
  4. 物理的に存在する限り、読書ができる。電源は必要なく、ページを開くことができれば読書ができます。水、炎、生物から守ることができれば、何年後でも読書ができます。
  5. リアル書店の重要性。紙の本を販売する書店は、文化発信の地として非常に重要な存在であり続けるでしょう。また、書店では本との一期一会の出会いがあり、自分が普段読まないジャンルの本に出会う数少ない場所でもあります。世間の流行も書店で売れている本を見ればわかります。
  6. その他、読み終わったら古本屋に売りに行けるし、そもそも古本屋で安く買えるのは読者の財布に優しいです。(電子書籍ならば古本屋での取り扱いがない分、出版社と作者にメリットがあると思いますが。読者としても両者を応援したいですし)

このように、紙と電子書籍にはどちらにもメリットがあり、読者はそれを真剣に考え、紙か電子書籍を選んでいます。出版社の皆様は、どちらかのユーザーだけを優遇するのではなく、両方のユーザーに対して、できるだけ正面から向き合ってください。

私は、物語にはメディアを凌駕する力があると信じています。たとえ何に書かれていても、物語に力さえあれば、読者の胸に響くと信じています。

かつて粘土板や木、竹、羊皮紙に書かれていた物語は、数百年の時を超えて現代にまで受け継がれています。素晴らしい物語はそれが書かれたメディアなど関係なく、ずっと残ります。それは今後電子書籍が更に普及しても、全く変わらないでしょう。

新潮社さまには、なぜ筒井康隆『旅のラゴス』の電子書籍版を出さないのか(他の作品は相当出ている)、いち早くワープロで執筆していた安部公房の著作を早く電子書籍で出すべきではないか、等々、他にも言いたいことはありますが、村上春樹の著作が出揃えば、更に電子書籍も普及するでしょうし、まずはその辺をがんばっていただきたいです。